名優の加藤豪さんが亡くなられて1年経ちました。
私にとっては青春の1ページを飾る大好きな俳優さんです。
懐かしき加藤豪さんを忍んで…

(昨年アメブロに記載したものから抜粋)

一周忌に寄せて

私が新潟の女子高生の時、授業の一環で観劇がありました。

演目は確かゴーリキ作戯曲「どん底」だったと思います。

東京の俳優座の公演で、しかも加藤剛主演の舞台を間近で観られる。しかも本物の芸能人を生で見れるって、それはもう私達は興奮したものです。

今から◯十年前の話しです。グループ・サウンズが流行りだし、クラスの女子はタイガースだ、テンプターズだと騒いでいた頃です。

そんな中、有名な劇団の公演ということで、観劇の時はお行儀よく大人しくお嬢さんらしく、食い入るように観ていました。

舞台上の床が少し斜めになっていて奥へ向かって少し高くなっていました。舞台効果なのでしょうね。それが面白く、演劇の舞台はみんなそんな風に設置するんだと思い込んだものでした。

その舞台に加藤剛さんが出て来た時はどこからともなくため息がもれていました。

スープを飲むシーンでは、お皿からスプーンでスープを口に運ぶ仕草がまるでお皿の中に本当にスープが入ってるように見えて、しかも上品で美しく、どんなに感激したかわかりません。

おかしな話ですが、結局そこしか印象に残ってないんですね。

舞台が終わりました。緞帳が降りてさあ帰りますよってなった時、

友達が行くよと言って手を引いて連れてってくれたのが、舞台裏。

禁止されていたのにもかかわらず、楽屋に真っしぐら!

そう加藤剛さんに会いに走ったんです。

楽屋口にあの加藤剛さんがにこやかに出てきてくれました。とても優しく接してくれました。

友達がすかさず
「サインしてください!」
とサイン帳のようなものを出していました。
「わ、凄い、ちゃんと用意してたんだ。」
と半分唖然としてると、
「君は?いいの?」
と加藤剛さんが私に目を向けてくれました。
「あ!わたし?わたしですか?   えっとえーと……」
サイン帳なんて気の利いたものを用意してなかった私が手に持っていたもの
「じ、じゃあこれに!」
と言って差し出したのは、
ちょっとヨレヨレの紙袋でした。
(なんで紙袋を持っていたのか、 多分カバンがわりに小物を入れてたのかな?
うすいピンク色の中位の大きさの紙袋でした)

「これでいいの?」

と、加藤剛さんは微笑みながら気持ちよくしっかりサインをしてくださったのです。
そして握手
大きく温かい手だったように覚えています。

楽屋から戻って集合に遅れ怒られながらも、心は羽根が生えたようにふわふわでした。

家に帰って、サインの周りを綺麗に切って額に入れるとか、
何かのノートに貼るとかはしないで、確かそのまま紙袋を壁に貼っていたかと。

その後その紙袋はどうしたのか忘れてしまいましたが、私の初めての芸能人との接触体験、
しかも芸能人にサインをしてもらう夢が叶った、懐かしい青春のひとコマです。

正統派の演技人で、普段も真面目で人柄が良かったそうです。息子さんは一度も怒られた事がないと仰るほどで、後輩にたいしても偉ぶることのない方だったそうです。

栗原小巻さんとの共演の映画「忍ぶ川」では、結婚した二人が夜窓を開け雪原の向こうの川を眺めるシーンがロマンチックで、将来私も結婚したらこんな風に旦那様と夜空を眺めてみたいなあ、こんなに素敵な旦那様だったらいいなと想いを馳せたものです。

ご冥福をお祈りいたします。合掌